ファイヤーキングだけじゃない|アメリカのヴィンテージ耐熱ガラス5社を裏の刻印で見分ける
2026年9月16日 公開
アメリカのヴィンテージ耐熱ガラスは、ファイヤーキングだけではありません。同じ時代に、同じような乳白色の器を作っていた会社が何社もあります。
骨董市やフリマアプリで「ファイヤーキング」として売られているものの中に、別の会社の製品が混ざっていることがあります。売る側に悪意があるとは限りません。見た目が本当に似ているからです。
ただし、裏を見れば分かります。各社が刻印を入れているからです。そして刻印の文言は時代ごとに変わっているので、会社だけでなく、おおよその年代まで読めます。
この記事は、当サイトのファイヤーキング(アンカーホッキング)の解説の続きにあたります。ファイヤーキングそのものの歴史は、そちらをご覧ください。
まず、5社を一覧で
| ブランド | 会社 | 操業年 | 裏の刻印 |
|---|---|---|---|
| ファイヤーキング Fire-King |
アンカーホッキング (オハイオ州ランカスター) |
1941〜 (終わりは諸説。下記) |
錨(いかり)のマーク。文言は年代で3種類(下記) |
| パイレックス Pyrex |
コーニング | 1915〜現在も | PYREX / Pyrex の文字 |
| ヘーゼルアトラス Hazel-Atlas |
ヘーゼルアトラス (ウェストバージニア州ウィーリング) |
1902〜1964 | Hの下に小さいA(1923年から) |
| グラスベイク Glasbake |
マッキーグラス → ジャネットグラス | 1917〜1983 | Glasbake の文字+「J-」で始まる番号 |
| フェデラル Federal |
フェデラルグラス (オハイオ州コロンバス) |
1900〜1979 | 盾の中にF |
操業年を見ると、その器が「いつのものではありえないか」が分かります。たとえばヘーゼルアトラスの刻印があるなら、1964年より後のものではありません。会社が無いからです。
【訂正】ファイヤーキングの期間について、当サイトは以前「1942〜1976年」と書いていました。改めて確認したところ、この書き方は正確ではありませんでした。
- 始まり:1941年。米国特許商標庁の記録では、Fire-King 商標の最初の使用が1941年1月30日、登録が同年6月24日。市販を確認できるいちばん古い広告は1942年10月のものです
- 終わり:1976年という年に、強い裏づけがありません。コーニング博物館は「1941年に登場し、2000年まで続いた」としています。1970年代半ばまでを「オリジナル期」とするのはコレクター資料の整理です
したがって、この記事では「1941年に始まり、オリジナル期は1970年代半ばまでとされる(ブランドとしては2000年まで)」という書き方にしています。
裏を見る順番
器をひっくり返したら、この順に見ると迷いません。上から順にあてはめて、合ったところで止めてください。
- 錨(アンカー)の形があるか? あればアンカーホッキング(ファイヤーキング) Hに重なっているか、四角で囲まれている。ここだけ見れば取り違えません
- 大きなHの下に、小さなAがあるか? あればヘーゼルアトラス(1902〜1964) 錨は無い。Hの字だけ見て判断すると、上と取り違えます
- 「J-」で始まる番号が入っているか? あればグラスベイクのジャネット期(1961年以降) ファイヤーキングに、この形式の番号は入りません
- 盾の中にFがあるか? あればフェデラル(1900〜1979)
- PYREX または Pyrex の文字か? あればコーニング ただし大文字か小文字かで年代は決まりません。理由は下に書きます
※商標にあたる図案(錨、H+A、盾のF)は、当サイトでは図にしていません。実物の形は、お手元の器か、各社の公式資料でご確認ください。
いちばん間違えやすい2つ
ヘーゼルアトラスの「H+A」と、アンカーホッキングの「錨+H」
この2つの取り違えが、いちばん多いようです。米国の刻印資料でも「頻繁に混同される」と名指しで注意されています。
| 見た目 | 覚え方 | |
|---|---|---|
| ヘーゼルアトラス | 大きな H の下に、小さな A | テーブルの下に踏み台が置いてあるような形、と表現されます |
| アンカーホッキング | 錨(アンカー)が H に重なっている/錨が四角で囲まれている | 錨の形があればアンカーホッキング。ここだけ見れば間違えません |
判断の決め手は「錨の形があるかどうか」です。Hの字だけを見て判断すると取り違えます。
グラスベイクとファイヤーキングの乳白色
どちらも白い器を大量に作ったので、形だけでは区別がつかないものがあります。
グラスベイクには「J-2352」のような、Jで始まる型番が入っています。これはジャネットグラスが作っていた1961年以降のものです。ファイヤーキングにこの形式の番号は入りません。
ファイヤーキングは、刻印の文言で年代が読めます
アンカーホッキングは時期によって刻印の文言を変えています。これが年代を読む手がかりになります。
| 刻印の文言 | おおよその年代 |
|---|---|
| FIRE-KING | いちばん古い系統 |
| FIRE KING OVEN WARE | 1952〜1962年ごろ |
| ANCHOR HOCKING の社名が加わる | いちばん新しい系統 |
※この3つの「年」には、強い裏づけがありません。はっきりしているのは変わっていった順番だけで、年代はコレクターの間の通説です。金型は長く使われるので移行期のものは重なりますし、「この刻印だから何年」とは言えません。
色でも、おおよその時期が分かります
| 色 | 作られた時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| サファイアブルー | 1942〜1945年ごろ | 透ける淡い青。いちばん古い系統 |
| ジェダイ(Jade-ite) | 1945年〜1970年代 | 不透明な翡翠色。いちばん人気がある |
| ピーチラスター | 1952〜1963年ごろ | 光沢のある淡い琥珀色 |
| ターコイズブルー | 1956〜1962年ごろ | 濃い不透明の青緑 |
| アズライト | 資料が割れています(1940年代後半説と1960年代説) | 淡いパステルの青 |
ジェダイは30年以上作られています。「ジェダイだから古い」とは言えません。年代を見たいなら刻印のほうです。
【重要】パイレックスの「大文字=耐熱ガラス」は、誤りです
「PYREX(大文字)は古い耐熱ガラス、Pyrex(小文字)は新しい強化ガラス」という説が広まっていますが、これで年代やガラスの種類は判別できません。
パイレックスを作ったコーニング社の博物館(The Corning Museum of Glass)が、はっきり否定しています。大文字から小文字への変更は1970年代後半のブランド刷新によるもので、ガラスの種類を判断する決定的な方法ではない——というのが同館の回答です。
ではどう見るのか。コーニングは点と線を組み合わせた製造日コードを製品に刻んでおり、ガラスの種類・製造時期・製造場所はそちらで管理されていました。裏に並んだ点や短い線がそれです。
「数字」と「点と線」は、別のものです
ここは混同されがちなので、分けて書きます。
| 裏にあるもの | 何を表すか |
|---|---|
| 点と線 | 製造日コード。コーニング博物館が「ガラスの種類・いつ・どこで作られたかを示すための、点と線による複雑な体系」と説明しています |
| 数字(473、401 など) | 型番や製造ロットで、年ではありません。ただしこれはコレクター資料の見解で、メーカー側の裏づけは見つかりませんでした |
※点と線の読み方は、公表されていません。「この並びだから何年」と読み解く方法は、少なくとも博物館側からは示されていません。「日付コードがある」ことと「日付が読める」ことは別です。
刻印の文言でも、おおまかな時期は分かります
以下はすべてコレクター資料によるもので、メーカーの裏づけはありません。目安として見てください。
| 刻印の特徴 | おおよその時期 |
|---|---|
| セリフ体の PYREX と、CGのマーク | 1915〜1924年ごろ |
| 「PATENTED」と「MAY 27, 1919」 | 1924〜1945年ごろ |
| ® と MADE IN U.S.A. | 1950年ごろ〜 |
| 直線に組まれた大きな PYREX | 1960年代後半 |
| 容量がメートル法でも書かれる | 1970年代半ば〜 |
「MAY 27, 1919」は、特許の日付です。製造年ではありません。
1930年代に作られたものにも、この日付が入っています。ここを製造年と読むと、10年以上ずれます。
アメリカのパイレックスが強化ガラスに変わった時期
ここも、一般に思われているよりずっと早いようです。
- コーニングは1940年代ごろから、強化ソーダライムガラスを試し始めた
- 1998年に消費者向け部門を売却した時点では、ほとんどの食器が強化ソーダライムガラスに変わっていた
つまり「1990年代までのアメリカ製パイレックスはホウケイ酸ガラス」という理解は、正確ではありません。
ただし、いま売られている新品については話が別です
現行品に限れば、表記の違いは意味を持ちます。
| 表記 | 作っている会社 | ガラス |
|---|---|---|
| PYREX(大文字) | ヨーロッパ向け(Arc International)/実験器具 | ホウケイ酸ガラス。熱の急変に強い |
| pyrex(小文字) | アメリカ向け(コレール系) | 強化ソーダライムガラス。落としたときに強い |
新品を選ぶときの目安としては使えます。ヴィンテージの年代判定には使えません。この2つを混ぜて語られているのが、混乱のもとです。
日本で買うときの注意。現行のヨーロッパ製パイレックスは、大文字の PYREX 表記です。
つまり「大文字だから古いアメリカ製」とは限りません。フランスで作られた、いま売られている新品かもしれません。
会社も、何度も変わっています
「コーニングのパイレックス」と言えるのは、実は1998年までです。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1915 | コーニング社がパイレックスを世に出す |
| 1998 | コーニングが消費者向け部門を売却 |
| 2000 | World Kitchen に改称 |
| 2018 | Corelle Brands に改称 |
| 2019 | Instant Brands に(2021年とする資料もあります) |
| 2023 | 経営破綻(米連邦破産法11条) |
| 2024年2月 | Corelle Brands として再建 |
商標そのものは、いまもコーニングが持っています。作っている会社に、ライセンスを出している形です。
※「1998年の売却でパイレックスの品質が落ちた」という説をよく見かけますが、これは成り立ちません。売却の時点で、コーニング自身がすでにほとんどの食器を強化ソーダライムガラスに切り替えていたからです。上に書いたとおりです。
※どちらが優れているという話ではありません。ホウケイ酸は急な温度変化に強く、強化ソーダライムは衝撃に強い。強みが違います。アメリカが後者へ移ったのは、割れにくさと製造コスト、それにホウ素の環境負荷が理由とされています。
もう2つ、よくある誤解
「ファイヤーキングはパイレックスの前身・旧名」── 別の会社です
パイレックスの商標出願は1915年、ファイヤーキングは1941年。26年の差があり、作っていた会社も違います(コーニングとアンカーホッキング)。
混同が起きた理由は、はっきりしています。コーニングが Pyrex の名前を他社にライセンスしていた時期があるからです。似た名前の耐熱ガラスが複数の会社から出ていたので、記憶が混ざります。
「ジェダイはウラン入りで、ブラックライトで光る」── 光りません
ミシガン州立大学の記事が「ファイヤーキングのジェダイにウランは入っていない」と明言しています。
混同の元は、1930年代のマッキー社やジャネット社の緑のガラスです。そちらにはウランを使ったものがあり、紫外線で光ります。時代も会社も違うものが、同じ「緑の乳白ガラス」として語られてしまっています。
いま、ファイヤーキングとパイレックスは同じ工場にいます
おまけのような話ですが、2026年時点の資本関係が面白いことになっています。
アンカーホッキングを傘下に持つ投資ファンドが、2024年にパイレックス側(Corelle Brands)も取得しました。
そして2025年4月、ペンシルベニア州のパイレックス工場を閉じ、生産をアンカーホッキングのオハイオ州ランカスター工場へ移しています。
70年前に棚を争っていた2つのブランドが、いま同じ工場で作られている。ここまで来ると、「どちらが本家か」という議論はあまり意味を持ちません。
ヴィンテージの耐熱ガラスを、実際に使うなら
集めるだけでなく使いたい、という方へ。70年前後の器なので、現代の道具と同じようには扱えません。
- 急な温度変化を避ける。冷蔵庫から出してすぐオーブン、熱いままの器を水につける——これがいちばん割れます
- 電子レンジ・直火は想定されていません。作られた当時、家庭に電子レンジはありません
- 食洗機は避ける。絵柄が焼き付けの塗装なので、洗剤と高温で少しずつ落ちます
- ヒビや欠けがあるものは、加熱に使わない
飾る・冷たいものを盛る・サラダボウルにする。この使い方なら、まず問題は起きません。
どこで買えるか
当サイトで記録している、耐熱ガラスを扱う店です。いずれも2026年9月に現況を確認しています。
| 店 | 扱い |
|---|---|
| TRI-ZEAL(山形県朝日町) | ファイヤーキング/パイレックス/ヘーゼルアトラス/グラスベイク/フェデラル。刻印の一覧を自前で公開しています |
| atTic antiques(通販) | ファイヤーキング専用ページあり。パイレックス、ヘーゼルアトラス、ケメックス |
| AIZAWA ZAKKATEN(群馬県太田市) | ファイヤーキング、レトロ雑貨。現況は確認できていません |
5社ぶんの刻印を並べて公開している TRI-ZEAL は、日本では珍しい店です。仙台から人口6千人台の朝日町へ移転して、通販に振り切っています。
現行品(アンカーホッキングは今も操業しています)を新品で買う方法は、通販で買える店のページにまとめています。
おまけ:ファイヤーキングは、おまけでした
最後に、この器の性格をよく表している事実を。
ファイヤーキングの多くは、高級品として売られたものではありません。食料品店や雑貨店で、安く売られていた器です。
そして、こういう器が景品として配られていたという話が、よく語られます。オートミールの箱に入っていた、ガソリンを入れるともらえた、という類のものです。
ここは正直に書きます。ファイヤーキングについて、この話の一次資料を見つけられませんでした。
博物館の資料で裏が取れるのは、同じ時代の安価なガラス食器(デプレッションガラス)全般について、映画館の景品や、石鹸・小麦粉の購入特典として配られたところまでです(イリノイ州立博物館)。オートミールやガソリンは、この資料には含まれていません。
ファイヤーキングの特定の柄が特定の商品のおまけだった、という話はコレクターの間で広く語られていますが、こちらでは確認できていません。
いま骨董として扱われているものが、当時は景品だった。1950年代のアメリカの豊かさというのは、そういう形をしていました。
この記事について
当サイト HONEYHONEY は2014年から、50's・60'sのアメリカ文化と、それを扱う店を記録しています。
本記事の年代・刻印・会社の沿革は、以下で確認しました。
- The Corning Museum of Glass(コーニング博物館)— パイレックスの表記とガラスの種類について
- Glass Bottle Marks — ヘーゼルアトラス、フェデラルグラスの刻印と操業年
- 各社の沿革(ヘーゼルアトラス:1902年設立、1957年コンチネンタルカンが買収、1964年に10工場をブロックウェイへ売却)
※刻印による年代判定は目安です。金型が長く使われること、例外的な製品があることから、「この刻印だから何年」と断定はできません。高額な取引をされる場合は、専門の鑑定をご利用ください。