ファイヤーキングだけじゃない|アメリカのヴィンテージ耐熱ガラス5社を裏の刻印で見分ける
2026年9月16日 公開
アメリカのヴィンテージ耐熱ガラスは、ファイヤーキングだけではありません。同じ時代に、同じような乳白色の器を作っていた会社が何社もあります。
骨董市やフリマアプリで「ファイヤーキング」として売られているものの中に、別の会社の製品が混ざっていることがあります。売る側に悪意があるとは限りません。見た目が本当に似ているからです。
ただし、裏を見れば分かります。各社が刻印を入れているからです。そして刻印の文言は時代ごとに変わっているので、会社だけでなく、おおよその年代まで読めます。
この記事は、当サイトのファイヤーキング(アンカーホッキング)の解説の続きにあたります。ファイヤーキングそのものの歴史は、そちらをご覧ください。
まず、5社を一覧で
| ブランド | 会社 | 操業年 | 裏の刻印 |
|---|---|---|---|
| ファイヤーキング Fire-King |
アンカーホッキング (オハイオ州ランカスター) |
1942〜1976 | 錨(いかり)のマーク。文言は年代で3種類(下記) |
| パイレックス Pyrex |
コーニング | 1915〜現在も | PYREX / Pyrex の文字 |
| ヘーゼルアトラス Hazel-Atlas |
ヘーゼルアトラス (ウェストバージニア州ウィーリング) |
1902〜1964 | Hの下に小さいA(1923年から) |
| グラスベイク Glasbake |
マッキーグラス → ジャネットグラス | 1917〜1983 | Glasbake の文字+「J-」で始まる番号 |
| フェデラル Federal |
フェデラルグラス (オハイオ州コロンバス) |
1900〜1979 | 盾の中にF |
操業年を見ると、その器が「いつのものではありえないか」が分かります。たとえばヘーゼルアトラスの刻印があるなら、1964年より後のものではありません。会社が無いからです。
いちばん間違えやすい2つ
ヘーゼルアトラスの「H+A」と、アンカーホッキングの「錨+H」
この2つの取り違えが、いちばん多いようです。米国の刻印資料でも「頻繁に混同される」と名指しで注意されています。
| 見た目 | 覚え方 | |
|---|---|---|
| ヘーゼルアトラス | 大きな H の下に、小さな A | テーブルの下に踏み台が置いてあるような形、と表現されます |
| アンカーホッキング | 錨(アンカー)が H に重なっている/錨が四角で囲まれている | 錨の形があればアンカーホッキング。ここだけ見れば間違えません |
判断の決め手は「錨の形があるかどうか」です。Hの字だけを見て判断すると取り違えます。
グラスベイクとファイヤーキングの乳白色
どちらも白い器を大量に作ったので、形だけでは区別がつかないものがあります。
グラスベイクには「J-2352」のような、Jで始まる型番が入っています。これはジャネットグラスが作っていた1961年以降のものです。ファイヤーキングにこの形式の番号は入りません。
ファイヤーキングは、刻印の文言で年代が読めます
アンカーホッキングは時期によって刻印の文言を変えています。これが年代を読む手がかりになります。
| 刻印の文言 | おおよその年代 |
|---|---|
| FIRE-KING | 1942〜1952年ごろ |
| FIRE KING OVEN WARE | 1952〜1962年ごろ |
| ANCHOR HOCKING の社名が加わる | 1962〜1976年ごろ |
※あくまで目安です。金型は長く使われるので、移行期のものは重なります。「この刻印だから絶対にこの年」とは言えません。
色でも、おおよその時期が分かります
| 色 | 作られた時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| サファイアブルー | 1942〜1945年ごろ | 透ける淡い青。いちばん古い系統 |
| ジェダイ(Jade-ite) | 1945〜1976年 | 不透明な翡翠色。いちばん人気がある |
| ピーチラスター | 1952〜1963年ごろ | 光沢のある淡い琥珀色 |
| ターコイズブルー | 1956〜1962年ごろ | 濃い不透明の青緑 |
| アズライト | 1960年代初め | 淡いパステルの青 |
ジェダイは30年以上作られています。「ジェダイだから古い」とは言えません。年代を見たいなら刻印のほうです。
【重要】パイレックスの「大文字=耐熱ガラス」は、誤りです
「PYREX(大文字)は古い耐熱ガラス、Pyrex(小文字)は新しい強化ガラス」という説が広まっていますが、これで年代やガラスの種類は判別できません。
パイレックスを作ったコーニング社の博物館(The Corning Museum of Glass)が、はっきり否定しています。大文字から小文字への変更は1970年代後半のブランド刷新によるもので、ガラスの種類を判断する決定的な方法ではない——というのが同館の回答です。
ではどう見るのか。コーニングは点と線を組み合わせた製造日コードを製品に刻んでおり、ガラスの種類・製造時期・製造場所はそちらで管理されていました。裏に並んだ点や短い線がそれです。
アメリカのパイレックスが強化ガラスに変わった時期
ここも、一般に思われているよりずっと早いようです。
- コーニングは1940年代ごろから、強化ソーダライムガラスを試し始めた
- 1998年に消費者向け部門を売却した時点では、ほとんどの食器が強化ソーダライムガラスに変わっていた
つまり「1990年代までのアメリカ製パイレックスはホウケイ酸ガラス」という理解は、正確ではありません。
ただし、いま売られている新品については話が別です
現行品に限れば、表記の違いは意味を持ちます。
| 表記 | 作っている会社 | ガラス |
|---|---|---|
| PYREX(大文字) | ヨーロッパ向け(Arc International)/実験器具 | ホウケイ酸ガラス。熱の急変に強い |
| pyrex(小文字) | アメリカ向け(コレール系) | 強化ソーダライムガラス。落としたときに強い |
新品を選ぶときの目安としては使えます。ヴィンテージの年代判定には使えません。この2つを混ぜて語られているのが、混乱のもとです。
※どちらが優れているという話ではありません。ホウケイ酸は急な温度変化に強く、強化ソーダライムは衝撃に強い。強みが違います。アメリカが後者へ移ったのは、割れにくさと製造コスト、それにホウ素の環境負荷が理由とされています。
ヴィンテージの耐熱ガラスを、実際に使うなら
集めるだけでなく使いたい、という方へ。70年前後の器なので、現代の道具と同じようには扱えません。
- 急な温度変化を避ける。冷蔵庫から出してすぐオーブン、熱いままの器を水につける——これがいちばん割れます
- 電子レンジ・直火は想定されていません。作られた当時、家庭に電子レンジはありません
- 食洗機は避ける。絵柄が焼き付けの塗装なので、洗剤と高温で少しずつ落ちます
- ヒビや欠けがあるものは、加熱に使わない
飾る・冷たいものを盛る・サラダボウルにする。この使い方なら、まず問題は起きません。
どこで買えるか
当サイトで記録している、耐熱ガラスを扱う店です。いずれも2026年9月に現況を確認しています。
| 店 | 扱い |
|---|---|
| TRI-ZEAL(山形県朝日町) | ファイヤーキング/パイレックス/ヘーゼルアトラス/グラスベイク/フェデラル。刻印の一覧を自前で公開しています |
| atTic antiques(通販) | ファイヤーキング専用ページあり。パイレックス、ヘーゼルアトラス、ケメックス |
| AIZAWA ZAKKATEN(群馬県太田市) | ファイヤーキング、レトロ雑貨。現況は確認できていません |
5社ぶんの刻印を並べて公開している TRI-ZEAL は、日本では珍しい店です。仙台から人口6千人台の朝日町へ移転して、通販に振り切っています。
現行品(アンカーホッキングは今も操業しています)を新品で買う方法は、通販で買える店のページにまとめています。
おまけ:ファイヤーキングは、おまけでした
最後に、この器の性格をよく表している事実を。
ファイヤーキングの多くは、高級品として売られたものではありません。食料品店や雑貨店で安く売られ、そして——小麦粉やオートミール、ガソリンを買うとおまけで付いてきました。
アリスという柄はオートミールの箱に入っていました。カッテージチーズの容器が、そのままボウルとして使われたものもあります。
いま骨董として扱われているものが、当時は景品だった。1950年代のアメリカの豊かさというのは、そういう形をしていました。
この記事について
当サイト HONEYHONEY は2014年から、50's・60'sのアメリカ文化と、それを扱う店を記録しています。
本記事の年代・刻印・会社の沿革は、以下で確認しました。
- The Corning Museum of Glass(コーニング博物館)— パイレックスの表記とガラスの種類について
- Glass Bottle Marks — ヘーゼルアトラス、フェデラルグラスの刻印と操業年
- 各社の沿革(ヘーゼルアトラス:1902年設立、1957年コンチネンタルカンが買収、1964年に10工場をブロックウェイへ売却)
※刻印による年代判定は目安です。金型が長く使われること、例外的な製品があることから、「この刻印だから何年」と断定はできません。高額な取引をされる場合は、専門の鑑定をご利用ください。